アイドス森の博物館(イスタンブール)完全ガイド:歴史と見どころ

イスタンブールで歴史に触れるのに、必ずしも旧市街まで行く必要はありません。スルタンベイリ(Sultanbeyli)のアイドス森(Aydos Ormanları)に建つビザンツ時代の城で、2026年9月4日、新しく「アイドス森の博物館(イスタンブール)」がオープンしました。入館は、開館発表の時点では無料とされています。

森の中に残るビザンツ時代の城

アイドス城(Aydos Kalesi)が建つのは、アイドス山(Aydos Dağı)のイスタンブール側です。周囲は今も森のままです。11世紀から13世紀にかけて築かれたビザンツ時代の要塞で、「ケチ城(Keçi Kalesi、直訳すると『ヤギの城』)」という別名でも呼ばれます。かつてのギリシャ語名は「アエトス(Aetos)」、意味は「鷲」。鷲とヤギという対照的な二つの名前が、同じ城に残っていることになります。立地の良さから、防衛の要として使われていました。

考古学調査と修復作業を経て、城そのものは2022年末に一般公開されました。意外にも、旧市街から離れた森の中にありながら、2023年には約7万人の訪問者を記録しています。

城への道を登っていくと、イスタンブールの喧騒から数キロ離れたような静けさに包まれます。これも、この場所の魅力のひとつです。片側にはアイドス森、反対側には、数百年前に防衛のために築かれた城壁が続いています。

アイドス城の城壁とそれを囲むアイドス森の様子

イスタンブール征服の125年前にオスマン帝国領へ

アイドス城の歴史で、特に印象的な転換点は1328年です。この年、城はオスマン帝国の支配下に入りました。1453年のイスタンブール征服より、およそ125年も前のことです。では、この城は征服の物語のどこに位置づけられるのでしょうか。アイドス城を「征服の瞬間に使われた建造物」として語るよりも、1453年へとつながるオスマン帝国とビザンツ帝国の攻防の初期段階における、重要な拠点のひとつとして捉えるほうが正確でしょう。歴史学者ハリル・イナルジュク(Halil İnalcık)教授は、アイドス城をイスタンブール征服が始まった地点と位置づけました。スルタンベイリ市も、この城を征服への「入り口のひとつ」として紹介しています。

ここで語られる征服の歴史は、1453年に突然始まった出来事ではなく、オスマン帝国がビザンツ領内で数世紀にわたり勢力を広げていった、長い過程の一部なのです。

アイドス森の博物館 イスタンブールの展示

アイドス森の博物館の特徴は、はっきりしています。城の歴史を説明するのに、発掘調査で実際に出土した遺構をそのまま展示に使っているのです。並んでいるのは、柱や柱の基部、ドアや窓の縁に使われていた装飾石材、アーチの一部、浮彫装飾のパネル、欄干の部材、鉄かすがいで固定された石材、そして水路の部材。多くは初期から中期のビザンツ時代のものとされ、この城が単なる防衛施設ではなく、当時の建築様式や石工技術を知る手がかりにもなっていることを示しています。展示は出土品だけではありません。12年にわたる修復作業の各段階を記録した写真や、城の歴史を紹介する映像も公開されているので、現在見られる城の姿がどのように修復されてきたのかも、合わせて知ることができます。

アイドス森の博物館 イスタンブールに展示されたビザンツ時代の石材や柱の遺構

12年に及ぶ修復作業の末に

アイドス城が今の姿になったのは、短期間の修復の結果ではありません。作業の始まりは2010年です。まず2010年から2014年にかけて城壁部分の考古学調査と設計、施工が行われ、続く2015年から2018年には城内の建築物に関する作業が実施されました。その後の整備を経て、城とその周辺は一般に公開される考古公園として整えられています。文化遺産データベース「Kültür Envanteri」の記録によれば、事業の主体はスルタンベイリ市でした。イスタンブール考古学博物館の監修のもと、文化観光省や森林・農業省などの関係機関とも連携しながら進められています。

新しくオープンした博物館は、この長い過程の延長線上にある施設です。城壁を見るだけで終わらず、その城壁の下や周辺から発掘された遺構の物語にも、訪れる人が触れられるようになりました。

敷地内には、城と同時期のビザンツ建築として、貯水槽(サルヌチ)2基、教会、礼拝堂の遺構も残っています。

イスタンブールで味わえる、もうひとつの歴史ルート

アイドス森の博物館ならではの楽しみ方は、博物館見学と自然散策を同時にできることです。一般的な「市内中心部の博物館」とは違い、ここではアイドス森の自然環境がそのまま保たれた中に、歴史的建造物が佇んでいます。イスタンブールでの週末に、少し違った過ごし方を提案してくれる場所です。森の中を歩いて城まで登り、城壁を眺めたあとで、博物館の発掘品をじっくり見る、という回り方もできます。歴史に関心のある人なら、発掘品の展示と貯水槽や教会の遺構に時間をかけるでしょう。森歩きが目当ての人にとっては、城壁へ続く登り道そのものが見どころになります。

開館発表の時点では、月曜日が休館で、平日は9:00〜17:00、週末は9:00〜19:00に開館し、入館は無料とされていました。設備も整っています。敷地内にはカフェ(アイドス・カフェ、Aydos Kafe)、売店、礼拝スペース、駐車場などがあります。ただし、営業時間や料金は変わる可能性があるため、訪問前に公式発表で最新情報を確認しておくと安心です。

実のところ、イスタンブールの歴史は宮殿やモスク、旧市街だけのものではありません。アイドス城を訪れると、そのことにあらためて気づかされます。市内で最も人の多い地域のすぐ隣、森の中に、ビザンツからオスマンへと続く物語が今も残っています。

そして今、その物語を伝える小さな博物館ができました。

出典:スルタンベイリ市(Sultanbeyli Belediyesi)「Aydos Müzesi Açıldı」、Vikipedi「Aydos Kalesi」、Kültür Envanteri「Aydos Kalesi」

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